B:伝説の果樹 ノパルテンダー・ファビュローソー
……とある筋から、ノパルテンダーの実を採ってきてほしいと依頼があってね。戦利品として回収してきてほしいんだ。ただし、そこらにいる三つ頭のノパルテンダーの実じゃダメだ。
ひとつ頭で育ちきった奴の実だけが、素晴らしく芳醇な香りを放ち、途方もない値で取引されるのさ。……まあなんだ、民の暮らしを守るのがヴァイパーの仕事だが、こういう依頼もそれなりにある。危険なのは間違いないから油断すんじゃないよ。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「え…?」
あたしは自分が口を付けたカップをまじまじと見た。見れば相方も同じようにカップを見ている。
中にはコーヒーに似た液体が入っているのだが、苦みは少なく、フルーツの様な香りと甘みがあるのだがしつこさはなくスッと喉を通り、後からフワッと何とも言えない良い香りと後味がくる。
「どうだ、嬢ちゃん達。うめぇだろ?」
カウンターの向こうで初老のマスターが得意気に言った。
「うん、驚いた。これ、なんなの?」
あたしは調子に乗ったマスターの態度を茶化すでもなく、素直に応答した。
「これはな、この辺に居るノパルテンダーっていうサボテンダーの仲間が付ける実から作った飲み物さ」
相方が目を丸くして驚いている。確かにちょっとサボテンダーからは想像できないほど美味しい。
ノパルテンダーはヨカ・トラルにしか生息していないサボテンダーの一種で、エオルゼアに居る丸太の様な体に手足が生えたような退部ではなく、丸く団扇のようになった葉が上に積み重なる様に連なった体をしていて、体は大きく高さが2m~2.5mほどあるのだが厚みが薄い為フラフラと頼りなく動く。最も特徴的なのはその頭部で一つの体に3つの頭部が付いている。
「それはジュースみたいなもんだが、発酵させると酒にもなる。これがまた絶品なんだ」
「初めての味だね」
相方が言うとマスターがそれに答える。
「トライヨラやエオルゼアにも輸出はしてるんだが、いかんせんこれに係る人手は少ないし、ノパルテンダー自体の数も多くない。収穫量が少ないだけに高価だし、知名度が低いからな」
「惜しいね、これは名物になるし産業とて成立しそうなのに」
あたしが言うとマスターは苦笑いした。
「相手が相手だけに栽培するのも難しいし、戦える者でないと収穫できないしな」
そう言うとマスターは何か気付いたような表情をした。
「お嬢ちゃん達は冒険者かい?なら頼みたい事があるんだ」
あたしはカップに口を付けたままマスターの方を見た。
「実はな、このノパルテンダーティーには更に上のグレードがあってな。お嬢ちゃん達が今のんだのは普通にそこいらに居る3つ頭のノパルテンダーから採った果実が材料なんだが、稀少種に一つ頭のノパルテンダー・ファビュローソーって奴が居るんだ。こいつの果実で創ったティーは同じものとは思えない程、格段に旨いんだ。それだけに愛好家も多くてな、その果実も破格の金額で取引されているんだ」
金策の話を聞いて相方が身を乗り出すのを感じた。
「そのノパルテンダー・ファビュローソーが数日前に目撃されててな。もし興味があったら協力してもらえんか?」
金策の話に相方が激しく反応してキラキラした目であたしの方を見ているのを感じる。
あたしはカップをカウンターに置いて、マスターの方を見た。
「あたし個人の話しをするなら出来た飲み物には興味があるけど、破格っていうお金にはあんまり興味がないのよ」
マスターは少し残念そうな顔をした。相方もマスターに負けないくらい残念そうな顔をしているのを感じる。あたしは小さくため息をついた。
「でも、ね、ほら、あたしの隣でこの世の終わりを感知したのかと思うくらいがっかりする人がいる事だし、特に急ぎの仕事もないし。いいわ、引き受ける」
「ほんとか!それは有り難いな」
マスターは顔を明るくしてあたしに向かって微笑んだ。相方の顔もそこだけ室内照明の照度が上がったのかとおもうほど明るい顔になっているのを感じた。二人とも分かり易くていい。